石手内科通信
子どものこころと発達①ADHD(注意欠如多動症)診療に関する当院の考え方
元気な子?それともADHD?
新年度が始まり、学校や幼稚園にも慣れてきたころでしょうか?
特に5月の連休が終わると、本格的に集団生活が始まるというお子さんも多いでしょう。
そのような中、
「みんなおとなしいのに、うちの子だけ落ち着きがないのでは?」
「誰にでも話しかけているし、話が止まらない」
「幼稚園の先生には心配ないと言われたけど気になる」
という心配はないでしょうか?
また、学童期に入ると診療の中でも、以下のような相談を受けることが多いです。
「忘れ物が多い」
「宿題や準備がなかなか進まない」
「ゲームやスマホをやめるのが難しい」
こうした困りごとから、ADHD(注意欠如多動症)を心配して受診されるお子さんは少なくありません。
ADHDは、注意、行動、感情のコントロール、見通しを立てる力などに関係する発達特性です。
ADHDには不注意が目立つ子もいれば、衝動性が強く友人関係で困りやすい子もいます。
多動が目立つ子もいれば、課題の先延ばしや提出物の管理で苦しんでいる子もいます。
不注意にもいくつかのタイプがあり、集中を保つことが難しい、周囲の音や動きに気を取られやすい、必要な情報をうまく選び取れない、など様々です。
また、このような困りごとは、ADHDではなくても起きることは多々あります。
そのため、ADHDの診療で大切なのは、まずは正確な診断です。
現在の困りごとがADHDから来るものなのかどうか、一緒に整理をしましょう。
石手ファミリークリニックでは、ADHDの基本病態の理解、環境調整、行動支援、家族支援を含めて総合的に考えます。
来院を考える前に、まずはこちらのページで、お子さんへの心配が当てはまるかどうか確認しましょう。
石手内科通信 第3号では、ADHDの基本病態、日常で困りやすい場面、診断の考え方、薬物療法の位置づけについて、
できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
ADHDの基本病態
ADHDの特徴は、大きく分けて以下の3つになります。
1.不注意
忘れ物、提出物の出し忘れが多い。課題の見通しを立てられない。片づけや準備が苦手。
2.多動性
立ち歩きが多い。座っている場面でも体が動いている。そわそわして注意されやすい。遊びから課題への切り替えが難しい 。
3.衝動性
順番を待つのが苦手。割り込み。話の途中で口をはさむ。感情的になりやすい。
これらはADHDのわかりやすい症状になりますが、このような症状が出現するのには、もっと根底の特性があるといわれています。
それはADHDの機能障害(神経心理学的障害)とされていて、時間処理障害・実行機能障害・遅延報酬障害が影響していることが指摘されています。

特に時間処理障害は切り替えの難しさとも関係しており、なかなかやることに取り掛かれない、ゲームなどを止められないという声も多いです。
このように、ADHDは気持ちの問題ではなく、脳の働き方の特性として説明できます。
発達段階ごとの特徴
ADHDの特性は、年齢によって表れる特徴が変わってきます。
【乳幼児期〜就学前】
この時期は、もともと個人差が大きいため判断が難しいこともありますが、
・じっとしている遊びが続きにくい
・興味が次々と移る
・切り替えがうまくいかない
・危ない行動が目立つ
といった様子がみられることがあります。
不注意よりも多動性や衝動性が目立つことが多く、育てにくさとして感じられることがあります。
【学童期(小学生)】
小学生は、学校等でやるべきことを自分で管理することも増えてきます。そのため、
・忘れ物や提出物の出し忘れ
・宿題が進まない、時間がかかる
・授業中に集中が途切れる
・思ったことをすぐ言ってしまう
といった困りごとが目立ちやすくなります。
この時期は、やればできるはず、と誤解されやすい時期でもあります。
【思春期(中学生)】
スケジュール管理や優先順位を決めること、学業的な要素も求められます。 そのため、
・課題の先延ばし、提出期限に間に合わない
・スマホやゲームの時間が長くなる
・友人関係でのトラブルなどが増える
・不安、気分の落ち込み、睡眠の乱れといった二次的な問題
が重なりやすくなります。

ADHD治療ガイドラインからもまとめてみました。上記のような症状が特徴です。
診断についての当院の考え
子どもならよくあること、なのか、それともADHDに当てはまるのか、迷われるご家族は少なくありません。
困りごとが、発達課題としてどの子どもにもみられるものか、環境の影響によるものなのか、特性なのか、それで対応の仕方は変わってきます。
当院では、幼児期からの経過(生育歴)と現在の生活状況をもとに、困りごとの背景を丁寧に見立てていきます。必要に応じて、公認心理師が心理検査を行い、正確な診断の補助とします。
「診断がつくこと」に不安を感じる保護者の方も少なくありません。
一方、幼児期や学童期では、これまでの困りごとに理由がつき、保護者が納得できることも多くあります。「どうしてできないのか」が「どうすれば支えられるのか」に変わることで、関わり方が変わることもあります。
そのため当院では、必要な場合にはしっかりと診断を行いながら、過剰診断にならないよう慎重に見立てることを大切にしています。また、思春期では本人に特性を説明することで、少し腑に落ちる感覚が得られることがあります。「自分は努力が足りないのではないか」と感じていた子どもが、自分の特性を知ることで自己理解が進むことを期待しています。
最近のADHD診療をめぐる課題
近年、ADHD診療を取り巻く環境は大きく変化しています。
治療は、環境調整や関わり方の工夫を基本とし、薬は必要に応じて検討することが一般的です。
一方、日本ではADHD治療薬、とくに中枢神経刺激薬(コンサータ)の供給が不安定な状況が続いています。そのため、 薬を開始したくてもできない、継続中でも薬が手に入りにくい、といったことが起きています。
なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。
おそらく、子どもの一側面だけを見ていると、ADHDの診断は比較的つきやすいという特徴が影響していると思います。生活背景の整理が十分でない段階から薬物療法が開始される、といったケースが話題になることもあります。もちろん、すべてが不適切というわけではなく、 症状が強い場合には早期の薬物療法が必要なこともあります。しかし本来、ADHDの支援は環境調整や心理社会的治療から始まることが一般的です。
医療機関に受診するので、薬についての話題が出るのはある意味当然ではあります。しかし、 薬についてよくある誤解として、「飲めば集中できるようになる」「成績が向上する」といったイメージを持たれることがあります。実際には、そのように単純なものではありません。
ADHD治療薬は、 脳内のドパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きを調整します。この仕組みは、脳の報酬系(やる気・快感に関わる部分)にも関係することが知られています。
実際に、ADHDのあるお子さんでは、学習や行動の改善に寄与することが報告されています。しかし、 依存や耐性の問題、誤用、認知機能向上目的での使用(スマートドラッグ) といった側面も指摘されています。(著者の論文でも中枢神経刺激薬の依存・乱用リスクについて解説しています)
こうした背景から、当院ではADHDの支援において環境を整えるを第一として、薬はその上で困りごとに対処するために検討するものと位置づけています。
保護者の方の気持ちと薬物療法
ADHDの治療で薬を検討する際、 保護者の方はさまざまな思いを抱えていることを今までの診療で見てきました。
筆者は前職の愛媛大学医学部児童精神医学講座にて、保護者の方を対象に薬物治療に関する調査をいたしました。調査の結果は、英語論文として公表されています(オープンアクセスではないため、abstractのみ参照可能です)。そこでは、「長期間飲み続けることへの不安」 「副作用への心配」 「依存してしまうのではないかという懸念」 が多くの保護者に共通していることがわかっています。一方で、薬物治療で助かったという気持ちを持たれている保護者の方も多いことがわかりました。
大切なポイントとして、「子どものためになるのであれば使いたい気持ち」と「不安な気持ち」は同時に存在する、これはとても自然なことです。
この調査を通して、当院では
・薬物治療に関する保護者の不安を受け止めること
・治療方法について、十分に説明すること
・一緒に考えること
を大事にしたいと思っています。
受診について
当院はホームページからWebでの予約が可能です。
幼稚園/保育園、小学生以下の低年齢のお子さんのご相談は小児科予約を、思春期を迎えているお子さんは児童精神科予約を行ってください。
いずれの科でも発達障害の診療に関して経験豊富な医師が担当いたします。
予約方法が分かりにくい方、診察医についてお聞きになりたい方、などご質問があれば、お電話でお問い合わせください。
参考文献
河邉憲太郎:健常対照群における中枢神経刺激薬の影響.臨床精神薬理 28(10):1107-1114,2025
Kusunoki M, Kawabe K, Matsumoto Y, et al. Caregivers’ attitudes for pharmacotherapy in child psychiatry: a regional survey in Japan. Int J Dev Neurosci. 2026;86(2):e70121. doi:10.1002/jdn.70121.

石手内科通信 第3号