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石手内科通信

子どものこころと発達⑧スティグマ、マイクロアグレッションとカモフラージュについて解説

石手内科通信
目次

発達障害と「生きづらさ」

今回は、発達障害のある人が経験する「スティグマ」「マイクロアグレッション」「カモフラージュ」について取り上げます。

自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)では、対人関係やコミュニケーション、注意や行動のコントロールなどにさまざまな特性がみられます。

一方で、発達障害のある人が感じる「生きづらさ」は、こうした本人の特性だけで説明できるものではありません。

  • 「どうしてみんなと同じようにできないの?」と言われる
  • 「発達障害には見えないね」と言われる
  • 苦手なことを「努力不足」と受け取られる
  • 周囲に合わせるために、苦手さや特性を隠して生活する

といった経験が重なることがあります。

近年の研究では、こうした周囲からの偏見や日常的な言動と、発達障害のある人の心理的な負担との関係が研究されています。

そこで今回は、まず「スティグマ」と「マイクロアグレッション」について説明し、そのうえで、発達障害のある人が周囲に合わせるために行う「カモフラージュ」について考えてみます。

 

 

発達障害に対するスティグマとは?

スティグマ(stigma)とは、ある属性をもっていることによって、社会から否定的なイメージやレッテルをもたれたり、価値を低く見られたりすることをいいます。

例えば、

  • 「ASDだから人の気持ちが分からない」
  • 「ADHDだから落ち着きがない」

など、診断名だけからその人全体を判断してしまうことも、スティグマにつながります。

 

ASDのある人を対象とした研究では、周囲からステレオタイプな見方をされたり、否定的に判断されたり、差別を経験したりすることが報告されています。

さらに、周囲から繰り返し否定的な評価を受けることで、本人自身も「自分はダメなのではないか」といった否定的な考えをもつことがあります。
こうしたスティグマの内在化は、自尊感情の低下やメンタルヘルスの問題との関連も指摘されています。

しかし、発達障害に対する否定的なメッセージは、必ずしも分かりやすい差別として現れるとは限りません。
そこで注目されているのが、「マイクロアグレッション」という考え方です。

 

 

悪気のない言葉も?マイクロアグレッション

マイクロアグレッション(microaggression)とは、特定の属性をもつ人に対して日常的に向けられる、ささいに見えても否定的なメッセージを含む言葉や態度を指します。

発達障害のある人に対しては、例えば、

  • 「発達障害なのにすごいね」
  • 「発達障害には見えないね」
  • 「誰にだって苦手なことはあるよ」
  • 「もう少しみんなに合わせたら?」
  • 「頑張れば普通にできるでしょう」

といった言葉が、場合によってはマイクロアグレッションとして経験されることがあります。

重要なのは、言った人に悪意があるとは限らないということです。
「励ましたい」「安心させたい」という気持ちから出た言葉である場合もあります。

しかし、その背景に、

  • 発達障害であることは望ましくない
  • 「普通」に見えることがよい
  • 本人が周囲に合わせるべきである

といった考え方が無意識に含まれていることがあります。
このような経験が繰り返されると、発達障害のある人はどのように対応するのでしょうか。

 

 

周囲に合わせる「カモフラージュ」

ASDの研究では、周囲に適応するために自分の特性を目立たなくしたり、他の人の行動をまねたりすることを「カモフラージュ(camouflaging)」と呼びます。

例えば、

  • 分からなくても、分かったふりをする
  • 周囲の人の表情や話し方をまねする
  • 会話で使う言葉や受け答えをあらかじめ覚えておく
  • 自分の興味について話したい気持ちを抑える
  • 周囲を観察して、その場に合う行動を考える

といった行動があります。

外から見ると、こうした人は「コミュニケーションに問題がない」ように見えることがあります。
しかし実際には、周囲に合わせるために常に自分の行動を確認したり、本来の行動を抑えたりしていることがあります。

カモフラージュについては、主に次のような方法が研究されています。

  • 補償(compensation):苦手な社会的コミュニケーションを、学習した方法などで補う
  • マスキング(masking):ASDの特性が周囲から見えにくいように隠す
  • 同化(assimilation):周囲の集団に溶け込むために、自分を周囲に合わせる

カモフラージュすることで、人との関係を築きやすくなったり、学校や職場で過ごしやすくなったり、偏見や拒絶を避けたりできることもあります。
カモフラージュには、スティグマを避けることや他者とのつながりを得ることなどの利点があります。
一方で、長期的にはアイデンティティやメンタルヘルスへの影響、診断の遅れや見逃しなどとの関連が報告されています。

 

 

カモフラージュと心の健康

では、周囲に合わせ続けることは、本人にどのような影響を与えるのでしょうか。

2024年に報告されたメタ解析で、ASDのある人5,897人を含む研究が検討されました。
その結果、カモフラージュの程度が高いことは、

  • 不安
  • 抑うつ
  • 社交不安

などが強いことと関連し、心理的なウェルビーイングが低いこととも関連していました。
周囲に合わせるために自分の行動を常に調整することと、心理的な負担との間には関連があることが分かってきています。

さらに最近では、マイクロアグレッションとカモフラージュの関係についても研究されています。
2026年に医学誌「Autism」に掲載された研究では、ASDのある成人330人を対象に、障害に関連するマイクロアグレッション、周囲から受け入れられているという感覚、孤独感、カモフラージュの関係が調べられました。
その結果、マイクロアグレッションを多く経験している人ほど、補償、マスキング、同化という3種類のカモフラージュを多く行っていました。

つまり、周囲からどのように扱われ、どの程度受け入れられていると感じているかも、カモフラージュと関係している可能性があります。

 

 

私たちにできること

大切なのは、私たちが無意識のうちに、

  • 「普通ならこうする」
  • 「みんなができることはできるべき」
  • 「周囲に合わせることが適応である」

と考えていないか、一度立ち止まって考えてみることです。

例えば、ASDのある子どもが学校では問題なく過ごしているように見えても、家に帰るとぐったり疲れていたり、イライラしたりすることがあります。
学校で問題を起こしていないからといって、本人が困っていないとは限りません。

  • 本人はどのくらい無理をしているのか
  • どのような場面で疲れるのか
  • 何を我慢して周囲に合わせているのか
  • どうすれば無理をせず参加できるのか

と考えることも重要です。

発達障害への支援というと、本人にソーシャルスキルを身につけてもらったり、社会に適応する方法を学んでもらったりすることが役に立ちます。
しかし、本人だけを変えるのではなく、本人が無理にカモフラージュし続けなくても生活できる環境を考えることも支援の一つです。

 

 

まとめ

周囲からのスティグマや、日常生活の中で経験するマイクロアグレッションが心理的な負担となり、その結果としてカモフラージュが行われることがあります。
そして研究では、カモフラージュの多さと、不安や抑うつなどのメンタルヘルスの問題との関連も報告されています。

特にこのような負担は、高機能(知的な遅れがない)タイプや、女の子のASDに多いともいわれています。
ただし、カモフラージュは社会生活を送るために本人が身につけた大切な対処方法でもあります。

診察室でも、学校や家庭で「できているか」だけではなく、本人がどのくらい「頑張っているのか」を考えていきたいと思います。

 

引用文献

  1. Khudiakova V, Russell E, Sowden-Carvalho S, Surtees ADR. A systematic review and meta-analysis of mental health outcomes associated with camouflaging in autistic people. Research in Autism Spectrum Disorders. 2024;118:102492. doi:10.1016/j.rasd.2024.102492.
  2. Guan S, Takahashi F, Wada M, et al. Understanding autistic identity contingencies: The chain mediation effect of autism acceptance and loneliness in ableist microaggressions and social camouflage. Autism. 2026;30(2):466-483. doi:10.1177/13623613251389876.