石手内科通信
子どものこころと発達⑦発達性協調運動症(DCD)について
発達性協調運動症(DCD)について
今回は、発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder:DCD)について取り上げます。
DCDという言葉は、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)と比較すると、まだあまり知られていないかもしれません。
しかし、
- 縄跳びやボール運動が極端に苦手
- よく転ぶ、物にぶつかる
- 箸やハサミをうまく使えない
- 着替えに時間がかかる
- 字を書くことが苦手
- 自転車になかなか乗れない
といった「不器用さ」の背景に、DCDが存在していることがあります。
DCDはDSM-5-TRでは神経発達症のひとつに分類されています。

DSM-5-TRによるDCDの診断は、4つの条件が示されています [1]。
① 運動技能の獲得・遂行が年齢から期待されるより明らかに低い
物を落とす、物にぶつかるといった不器用さや、書字、道具操作、スポーツなどの動作の遅さ・不正確さ・ぎこちなさとして現れます。
② 日常生活、学業、遊びなどに影響している
単に体育が苦手など、学校の問題だけではなく、食事や着替えなどのセルフケア、学校での学業や余暇活動、遊びなどに実際の生活上の支障があることを確認します。
③ 症状は発達早期から存在する
DCDは後天的に突然生じる運動障害ではありませんが、幼児期は周囲から求められることが少なく、就学後になって問題が明確になる場合もあります。
④ 他の要因では説明できない
知的発達の問題のみでは説明できず、視覚障害や脳性麻痺、筋疾患などの神経疾患による運動障害ではないことを確認します。
DCDは、5~11歳の子どものおよそ5~6%にみられるとされ、決して珍しいものではありません。
単純にいうと、不器用な子なのですが、その一言では済まないです。
私たちは日常生活の中で、非常に多くの場面で運動の協調を必要としています。
食事、着替え、書字、絵を描くこと、道具の操作、楽器、スポーツ、自転車、そして大人になれば料理や自動車の運転などもその一例です。
運動の協調は、子どもから大人まで日常生活に必要な重要な機能なのです。
DCDではどのような症状がみられる?
DCDの特徴は、単に運動が苦手ということではなく、年齢やそれまでの経験から期待される水準と比べて、協調された運動技能の獲得や遂行が明らかに苦手であることです。
そして、その現れ方は年齢によって変化します。

上記のように、乳児から幼児、学童、青年期と、ライフステージによって課題となる問題が変化します。
特に学童期は、学校で困難感を覚えることが多くなりますが、その内容をあまり保護者に伝えないことも多いです。
なんとなく、個人の特徴というところで、おさめてしまうことが多いのではないかと思います。
ADHDやASD、LDとの合併
DCDの診療で特に重要なのが、他の神経発達症との併存です。DCDは他の発達障害を合併することが多いです。
DCDは「運動が苦手」「不器用」という症状だけが単独でみられるとは限りません。
ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、限局性学習症など、他の神経発達症をあわせもつことが少なくありません。
DCDについてまとめたレビューでは、DCD児の約50%にADHDが併存すると報告されています。
また、ASDや限局性学習症、言語発達の問題などとの重なりも報告されています[2]。
特に注意したいのが、DCDと学習面の問題との関係です。
学習障害のある7~16歳の子ども448人を調べた研究では、17.8%にDCDが併存していました[3]。
つまり、読み・書き・算数などの学習上の問題を主訴として評価された子どもの中にも、一定数のDCDが隠れていることになります。
特に書字はDCDの影響を受けやすい領域です。
字が汚い、ノートを取るのが遅いといった問題があると、学習障害が疑われますが、その背景に手指の細かな協調運動や運動学習の問題が関係している場合があります。
また、DCDのある子どもにはさまざまな心理社会的問題が重なっています。

こちらの文献では、
- 活動・注意の問題:78%
- 情緒の問題:70%
- 友人関係の問題:53%
- 素行の問題:43%
- DCDのみ:15%
と示されています[4]。 診断の併存率ではなく、注意・情緒・対人関係・行動などの問題がどの程度認められるかを示したものです。
運動が苦手だけではないDCDの問題
DCDの問題は、運動がうまくできないことだけではありません。日常生活の中で、さまざまな失敗を経験します。
そして周囲から、もっと頑張るように注意されることも多いと思います。
DCDによる負の経験は、心理的ストレスを生じさせ、不安や抑うつ、自己評価や自信の低下などの内在化問題につながります。
また、運動や活動への参加が少なくなれば、身体活動量が低下することにもなります。
さらに、座って過ごす時間の増加、食生活や睡眠などの生活習慣の問題が加わることもあります。

その結果として、過体重・肥満、体力の低下など、身体的な健康の問題につながる可能性も指摘されています[5]。
身体・心理・社会的な問題が相互に関連していることがわかりますね。
DCDの子どもへの支援
DCDのある子どもへの支援では、苦手な運動を繰り返し練習するだけではなく、本人が取り組みやすいように課題や環境を調整することが重要です。
課題の工夫としては、次のような方法があります。
- 時間を増やす:練習時間を確保する、活動の切り替えに余裕をもたせる
- 要素を減らす:複数の動きを一度に求めず、一つずつ取り組む
- 分かりやすくする:見本や写真、イラストなどを使って手順を示す
- ルールを柔軟にする:道具や課題の難易度、活動のルールなどを本人に合わせて調整する
また、本人への働きかけだけでなく、子どもを取り巻く環境そのものを調整することも大切です。
- 空間の調整:運動に集中しやすい場所をつくる、余計な刺激を減らす
- 人の調整:教師や周囲の大人が特性を理解し、適切な声かけやサポートを行う
- 物の調整:持ちやすい筆記用具や扱いやすい道具を用意する
例えば、体育でボールをうまく扱えない子どもに対して、何度も同じ練習をさせることだけが支援ではありません。
ボールを大きくしたり、投げる距離を短くしたり、動作をいくつかの段階に分けたりすることで、参加しやすくなることがあります。
学校生活でも同様です。
書字に時間がかかる場合には書く量を調整する、板書以外の方法を利用する、道具の操作が難しい場合には使いやすいものに変更するなど、本人を課題に合わせる、のではなく、課題や環境を本人に合わせるという視点が重要になります。
こうした調整は、単に苦手なことを避けるためのものではありません。
DCDのある子どもは、運動や日常生活の中で失敗を繰り返すことによって、活動そのものを避けるようになることがあります。
そのため、環境や課題を少し調整しながら「自分にもできた」という経験を積み重ねることが、その後の参加や意欲にもつながります。
大切なのは、すべてを代わりにやってあげることではなく、本人が持っている力を発揮できる条件を整えることです。
他にも、DCDに対する介入方法の一つとして、CO-OP(Cognitive Orientation to daily Occupational Performance)アプローチがあります [5]。
CO-OPは、DCDのある子どもを対象としてカナダで開発された、認知的な問題解決を利用して日常生活上の技能を身につけていくアプローチです。
単に苦手な運動を繰り返し練習するのではなく、子ども自身が「どうすればできるだろう?」と考え、方法を試しながら、自分に合ったやり方を見つけていくことを重視します。
CO-OPでは、基本となる考え方として、
- Goal(目標):何ができるようになりたいか
- Plan(計画):どうすればできそうか作戦を考える
- Do(実行):実際にやってみる
- Check(確認):うまくいったかを振り返る
という「Goal-Plan-Do-Check」の流れを繰り返します。

例えば、「縄跳びができるようになりたい」という目標があれば、ただ何度も縄跳びを繰り返すのではありません。
「縄を回す動きと跳ぶ動きを分けてみよう」「まず縄を前に持ってきてから跳んでみよう」など、本人と一緒に作戦を考えます。
そして実際に試し、うまくいかなければ、もう一度作戦を考え直します。
このようにCO-OPでは、支援者が一方的に「正しい動き」を教えるのではなく、子ども自身が問題解決の方法を身につけていくことを大切にしています。
DCDの支援では、単に「不器用だから練習させる」のではなく、本人が達成したい具体的な活動を目標にして、どうすればできるのかを一緒に考えていくという視点が重要です。
あとは、幼児を含むDCD児では感覚統合療法の有効性を示した報告もあります [6]。
また、ADHDを併存する場合には、メチルフェニデートの使用によって運動機能が改善する可能性も報告されています [7]。
まとめ
実際の診療では、ASDやADHDについて相談を受けることは多い一方で、DCDの相談されることは、それほど多くありません。
しかし、DCDは決して珍しい発達障害ではありません。
十分に認識・診断されていない理由のひとつとして、運動が苦手や不器用といった特徴が、発達障害の症状としてではなく、もともとの特徴と捉えられている可能性があります。
DCDはASDやADHDだけではなく、学習の問題などと併存することも多いため、そちらの問題が目立つことも関係あるかもしれません。
DCDの困りごとは、日々の学校生活の中で現れやすいです。
DCDを見つけるためには、医療機関だけではなく、保育園・幼稚園や学校での気づきがとても重要だと思います。
学校生活そのものに負担が生じている場合には、その背景にDCDがないかを考えてみる。必要に応じて医療機関に相談する。
そんな視点を持つことが、DCDの子どもたちを見逃さないための第一歩になるのではないでしょうか。
参考文献
-
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing; 2022.
- Harris SR, Mickelson ECR, Zwicker JG. Diagnosis and management of developmental coordination disorder. CMAJ. 2015;187(9):659-665. doi:10.1503/cmaj.140994.
- Margari L, Buttiglione M, Craig F, et al. Neuropsychopathological comorbidities in learning disorders. BMC Neurol. 2013;13:198. doi:10.1186/1471-2377-13-198.
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285. doi:10.1111/dmcn.14132.
- Polatajko HJ, Mandich AD, Missiuna C, Miller LT, Macnab JJ, Malloy-Miller T, Kinsella EA. Cognitive Orientation to Daily Occupational Performance (CO-OP): Part III—The Protocol in Brief. Phys Occup Ther Pediatr. 2001;20(2-3):107-123. doi:10.1080/J006v20n02_07.
- Yamanishi Y, et al. Examining the Effectiveness of Ayres Sensory Integration® Intervention for Children With Developmental Coordination Disorder in Improving Motor Coordination and Daily Activity Function: A Randomized Controlled Trial. Children (Basel). 2025.
- Bart O, Daniel L, Dan O, Bar-Haim Y. Influence of methylphenidate on motor performance and attention in children with developmental coordination disorder and attention deficit hyperactive disorder. Res Dev Disabil. 2013;34(6):1922-1927. doi:10.1016/j.ridd.2013.03.015.